「王さん、それは無理ですよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「そんなこと言わずに、なんとかしてよーーーーーーーーーーーーー」 在留変更申請では、お客様とのこの手の言い合いは日常茶飯事だ。 王さんは、今回の在留変更申請が認められないと母国中国に帰らなければならない。本人はある意味命をかけているのだ。 「私にご依頼頂いたら、こんな風にやりますよ。」 「だからって、あんたが許可を保証してくれるんじゃないだろーーーー」 どこまで依頼者の気持ちになれるか・・・。 それこそが、在留申請業務を手掛ける者に最も求められているものなのかもしれない。 「私は、入管との折衝もしますよ。もし、不当な理由で変更不許可を言ってきたら、情報公開請求権に基づいて、言い返してやりますよ!」 「それで・・・・」 (まだ納得していない様子・・・) 「許可を得る為の必要書類はこれですよ。」 ( 約30種類の一覧表を提示する ) 「え、こんなに・・・」 (ちょっとびっくりした様子・・・) 「入管から要求されている書類は、この表のうちのコレとコレとだけなんですけど、それだけじゃ心もとないんですよね。私が審査官だったら、これだけじゃ立証不足で不許可にしますね。入管が要求している立証資料は、あくまで最低条件にすぎないんですよ。」 「なるほど。それで・・・・」 (だんだん身を乗り出してくる・・・) 「結局、『これだったら日本でやってみなさい』って入管に思わせることができるかどうかって事なんですよ。わかります?王さん!」 「ウン。そうだなあ。」 (すっかりはまってきた様子・・・) 「だから、これとこれが、許可をもらうための立証資料としてどうしても必要なんですよ。わかるでしょ。」 「うんうん、なるほど、そういうことか。で、どうすればいいの?」 「これは、私が王さんからヒアリングして、それを入管提出用の書類に仕上げますから、王さんは、私の質問に答えて頂ければいいんですよ。」 「よし、わかった。あんたに頼むわ。!!」 たいてい、こんなやりとりを経て、受任するのだ。こちちも真剣勝負だ。腹がすわっているかどうかなんて、王さんにすぐ見破られるのだ。こちらが本気でないと入管業務はできないのだ! ある日、まだ王さんからの在留変更申請の許可が出ていないのに、王さんが別の友人を連れてきてくれた。 私を信頼してくれた証拠だと自分では理解している。 「こいつ、俺の友人なんだけど、こんな経歴で今日本に来てるんだ。こいつ "人文国際"に変更できるかなあ?」 「これは微妙ですねえ。審査基準が明確だからといっても、ある意味100%じゃないんですよね。定量的な部分と定性的な部分をはっきり区別して考えないと、思わぬ落とし穴にはまってしまうんですよねえ。この場合のポイントは、申請理由書ですね。」 入管業務では、「申請理由書」の出来栄えが許可結果を左右するといっても過言ではない。 それは、申請理由書が、"なぜ申請人が日本にいたいのか"を訴える文書であるからだ。しかし、「申請理由書」を許可させる文書として完成させることは容易なことではない。単なる評論家的な文書はすぐに入管に見破られるし、実務面が伴っていないと片手落ちだからだ。 例えば、在留資格「投資・経営」への在留変更申請。これは、数ある入管申請業務のなかでも、在留特別許可手続と並び、難関とされている業務である。 難関である理由は、「申請理由書」に加え、「事業計画書」が一般に必要とされているからだ。 事業計画書と聞くと・・・・・・・ "税理士" "中小企業診断士" "経営コンサルタント" を思い浮かべるが、ここでいう事業計画書は、『 入管に変更許可をもらうための事業計画書 』である。 「陽さん、この会社、2年後にどうされるおつもりですか?」 「そうだねえ。多店舗展開していきたいね。」 「どうやってそれを実現されるおつもりですか。」 「・・・・」 「陽さん、入管はあなたの○○○を見てるんですよ。だからそこを明確に事業計画書で定性的かつ定量的に述べないと、許可をもらうことは難しいですよ。」 「そうか、わかった。1週間待ってくれ。また連絡するから。」 「わかりました。それでは連絡お待ちしてますよ。」 自らの経験に裏打ちされた説得力ある説明は、実務家の特権だ。お客さんとのやりとりの中で、こちらからの実務的アピールがお客様の心をつかむ瞬間がある。これが得られると、後の事務処理は非常にやりやすい。 「樋口さん、もう後全部任せたわ。よろしく頼むよ」 となるのだ。 許可申請書を入管に提出するまでに、大抵の方は一度私の前で涙を見せられる。何度私ももらい泣きをしそうになったことか。だからこの仕事はやめられない。報酬を頂き、なおかつ感謝され、心の財産まで頂けるのだから。 昼飯から事務所に戻りポストを見た。 「あ、はがきがきているぞ。やった!王さんの許可通知だ」 「えっと、078−○○○−○○○○」 「お世話になります。樋口事務所です。あ、王さんですか。今日、許可通知が来ましたよ。」 「おーそーか!」 |